【所長の雑談】米が足りなくなったら輸入すると政治家が言うから、庶民の食卓での目線で日本の食糧自給率を考えてみた NEW

 こども技研では、「疑問に思ったらすぐに調べよう。調べたことから、自分なりに考えみよう」ということを大切にしています。
 今回は、私が疑問に思ったことを調べて考えました。2、3時間のことですので、思慮が足りないことがあると思いますがお許しください。

 米が高くなって、足りなくなったら、政治家は備蓄米を放出しました。
 次、備蓄米がなくなったら米を輸入するそうです。

 私が小さかった昭和の時代、『食べ物を輸入に頼っていると、輸出国に何かあった時に困るから、食料自給率はある程度確保しないといけない』と、社会科で習ったように思います。(相手国と喧嘩とかでなくても、不作で輸出する余裕がない等はありえます)

 もう少し大きくなって、少し食料自給率のことを調べた時、でてくるのは「カロリーベース」の自給率ばかりで、どうもピンと来ませんでした。

 カロリーベースとは、「ご飯3合 = コーン油150g」的な考え方です。
 生命の維持に必要なのはカロリーだから、食品をカロリーという単位でまとめて考える方法です。

 ですが、実際に食べるとなると——

 ちょっと待ってよ!ご飯の代わりならパン、うどん、せめてお肉くらいにして!
 油や砂糖で代用って、さすがに勘弁してほしい……。

と、思いますよね。

 今回はその辺りを、家族の食卓目線で考えてみます。
 
使うのは小学生レベルの算数です。


 今回の投稿の動機は、

「田舎は高齢化が進んで、放置された田畑が急増している」

という田舎が身近にあるものの体感からの視点です。

 この光景をみて、

 少子化が一気にここ数年で進んだように、これから、あっと言う間に米の生産が減る可能性があるのではないか?

 という素朴な疑問です。

 そうなったらどうなるの?

 こども技研の方針に則り、疑問に思ったらすぐに調べて考える!を実行してみました。

主食の重量ベースの輸入量と輸入率

カロリーベースで考えるのは、やめにします。
料理のレシピで「お米200kcal」とかって言われても、実感わかないですよね。笑
「牛肉300g」みたいに、私たちが食べている量は主に“重さ”です。だから今回は、重量ベースで考えます。
わかりやすく食卓をもとにした自給率を考えてみましょう。

 米は日本人の主食ですが、近年、ご飯の重要度はさがりました。
 米の他、関西なら粉もんが主食としてまず初めに思い浮かびます。
 あとはパスタ、パン等。同じように小麦粉の製品です。
 それからとうもろこし、ですがこれは主に家畜の飼料用です。
 あとは「麦飯」の大麦が続きます。

 これらの生産量と輸入量を表にしました。

データは「農水省「米の需給及び価格の安定に関する基本指針(2023年度)」財務省「貿易統計(2023年:SBS米・ミニマムアクセス米含む)」等によります。

品目国内生産量輸入量備考・輸入依存度
米(精米ベース)約7,600,000約260,000自給率約96.7%、輸入は主に備蓄用途
小麦約1,094,000約5,100,000輸入依存度約83%(米国・カナダ・豪州)
とうもろこし(飼料用含む)約200,000約14,100,000輸入依存度約98%(主に米国)
大麦約290,000約250,000飼料用・ビール用等含む、輸入依存約46%
雑穀・その他(キビ、アワ等)数万トン以下数千トンほぼ自給

 ここまでだけでも、トランプ大統領が「日本嫌い」と言えば、えらいことになりそうな想像ができます。

直接輸入と間接輸入

 上記の表は、穀物を直接輸入した量です。
 だけど、家族の食卓目線だと、冷凍食品等の加工品も食事のうちです。
 このように、輸入加工食品の中にも原材料として主食は含まれます。これらを間接輸入とします。
 それらを含めて、表を書き直します。

品目国内生産量輸入量(直接+間接)輸入依存度
米(精米ベース)約7,600,000 トン約260,000 トン約3%
小麦約1,094,000 トン約6,100,000 トン
+加工品分
約100万トン相当
約85–87%
とうもろこし約200,000 トン約14,100,000 トン約98%
大麦約290,000 トン約250,000 トン約46%
雑穀類数万トン数千トン約5%以下

米と小麦の自給率の計算

 上記の表で、主に日本人の食卓に上がるのは米と小麦ですから、それらだけを考えてみます。

 %で考えるとピンとこないので、重量で考えます。
 すると、

品目国内生産量輸入量輸入依存度
直接間接
760 万t26 万t約3%
小麦109 万t610 万t100 万t約85%
合計869 万t636 万t100 万t約54%
736万t

 大体、現時点で、食卓の主食の半分は輸入に頼っていることになります。

 もし、今後農業が廃れていって、米の生産量が現在の30%になったとすると、米の国内生産量は760 x 0.3 = 228 になります。
 (小麦はこの周辺のような高齢化が進む零細兼業農家ではあまり作られないので、ここでは減らないものとします)

 改めて計算すると,

( 228 + 109 ) / ( 228 + 109 + 736 ) = 約31%

主な主食になる米と小麦の自給率は約31%になりました。

肉類の自給率の計算

 「米やパンはなくても肉があればいい」と思う人も多いかもしれませんので、こちらも表にしてみます。

品目国内生産量輸入量輸入依存度
直接間接
牛肉25 万t50 万t10 万t約72%
豚肉90 万t93 万t12 万t約54%
鶏肉15 万t61 万t10 万t約83%
合計130 万t204 万t32 万t約36%
236 万t

 食肉は現時点で約36%を輸入に頼っています。

 しかし、国内の家畜の飼料の多くは輸入に頼っています。
 餌が輸入できなければ家畜を育てられません。
 これを表にします。(参考 農林水産省「飼料をめぐる情勢」2023

畜種飼料の輸入依存度(推定)備考
牛(肉用)約80〜90%自給飼料(乾草など)もあるが輸入穀物比重大。
約90%成長に応じてほぼ全て輸入飼料に依存。
鶏(ブロイラー)約95%成長が早く、栄養効率が高いため配合飼料中心。

 これを元に、国内生産量の中で、国内の飼料で生産されている量を再計算します。

品目国内生産量飼料の輸入依存度
(推定)
純国内生産量
(国産飼料で生産)
牛肉25 万t80 %5 万t
豚肉90 万t90 %9 万t
鶏肉15 万t95 %0.8 万t
合計130 万t14.8 万t

 試算した純国内生産量14.8万tから、純国内生産率を試算してみます。

14.8 / ( 130 + 236 ) = 約4%

 食肉は、飼料までを考えると、ほとんど全てを輸入に頼っていることになります。

 つまり、餌であるトウモロコシの輸出国はアメリカなので、トランプ大統領が「日本嫌い」と言えば、国内生産の肉類は、ほとんど吹っ飛ぶことになります。(T_T)

食卓全体の自給率の計算

 食卓では、ご飯にふりかけや漬物だけで済ませたり、焼肉でご飯は食べないなどはよくあることでしょう。
 このように、主食と肉類は補い合える存在です。
 ですので、現実の食卓に近い視点、主食と肉類を同等にみた視点での自給率を見てみました。

現時点での試算
品目総量国内生産量自給率
主食1605 万t869 万t約 54 %
肉類366 万t14.8 万t約 4 %
合計1971 万t884 万t約 45 %
国産米の生産が30%まで減った場合の試算
品目総量国内生産量自給率
主食1073 万t337 万t約 31 %
肉類366 万t14.8 万t約 4 %
合計1409 万t352 万t約 25 %

 食卓での食事というシンプルな視点で見ると、なお一層、国内生産の米が減ると、食料自給率がさがることがわかります。

 普段、スーパーへ買い物へ行く方は痛感していると思いますが、ここ数年で食材の価格は高騰しました。

 キャベツ、白菜、大根、にんじん、たまねぎ、じゃがいも等、国内生産で、今までそんなに高い価格にはならなかったものが、買えないほどに高くなることがでてきました。

 せめて主食くらいは!と、うちのような庶民の家庭では思うのです。

まとめ

 専門ではないので、これらの数値をもって断定的なことを言うつもりはありません。

 こども技研ですので、疑問に思ったことを調べる、考えるということをシミュレーション感覚で行っています。

 ただ、食品は生命の維持に直接関わるものなので、価格の変動や安全性の信頼といった観点から、国内生産のものは安心だよなあと思います。

 長期的な視点で自分の国の農業を守る国が多い中、そうでない国であることはとても残念です。

 日本は、経済活動等を「儲かるか否か?」と言った視点で見られることが多いですが、公的なことは赤字であっても行わなければならないことがあると思います。

 いえ、大切だけど赤字になるからパブリックで行うのではないでしょうか。
 その辺りの判断ができる大人を育てることも、大切な教育でしょう。
 (もちろん同時に「公的なことだから」と税金をジャブジャブ使う大人になってはいけないという教育も大切です)

 これは二人の子供を持つ、子育て中の一人の父親としての感想です。
 それ以上でもそれ以下でもないことをご理解ください。

最後に

 こども技研では、こども研究員に「自然や科学のことを自分なりに調べて、数字や事実をもとに考える力」を育てることを大切にしてほしいと考えています。
 今回の投稿は、同様に「社会」に関する所長個人の素朴な疑問をもとに、生活者の視点から数字を通じて考えてみた記録です。

 政治的な立場を主張するものではありませんが、将来、こうした視点にも子どもたちが関心を持ち、自分なりに考えられるようになってほしいと願っています。

 日本は、平和も平等も民主主義も、ある意味「与えられてきた」国でした。高度経済成長や安定した時代においては、十分な量の人・もの・お金があったので、政治に無関心でも幸せに暮らすことができました。

 しかしこれからの日本は、成長が止まり、衰えていくフェーズに入ります。その衰えもいつかは止まり、人口や生産に適した安定化の時代が来るでしょう。
 政治や社会を「自分たちのもの」として捉え、一人ひとりが自分を守り、社会を守る意思を持つ時代が来ているのではないでしょうか。