【所長の雑談】AIはベテランこそ使うべき理由。新人は慎重になる方がいい理由

AIを使う人と使わない人で、見えている景色が違う

 AIをどんどん活用している人と、「まったく興味がない」または「AIが大したことない」と思っている人で、見ている世界がまったく違っていると感じるようになってきました。

 現在私は、パソコンに向かって仕事をしている時、ほぼ100%AIを開いています。ずっと使っているわけではありませんが、要所要所で秘書に頼むように、先輩に質問するように、内容に応じたことを頼んでいます。

 そうした時間の中で、私はAIについて、「使い方を理解し、適した内容であれば、人に代わって十分に仕事をこなせる力がある」と感じています。

 ただ、それを実感している人は、今のところごく一部だと思います。
 ほとんどの人が、「AIを正しく使いこなすにはどうしたらいいか」ということ自体、まだ考え始めていないように見えるのです。


ベテランはAIと相性がいい

 私は、経験を積んだベテラン層はAIととても相性がいいと感じています。

 ベテランは、仕事の全体像や判断の基準、知識の構造を頭の中にしっかり持っているので、「AIにどういう問いを投げると、どう返ってくるか」を想像しやすいのです。そして、AIが返してきた答えが的確かどうかを、自分の経験に照らして判断することもできるので、AIを使う際に気をつけないといけない“ハルシネーション(AIが言うもっともらしい嘘)”を避けることができます。

 一方で、ベテランは年齢とともにどんどん思考のスピードが落ちてきます。若い時のようにマルチタスクも苦手になってきます(私が実感しています!(T_T))。
 その部分を、情報の整理や構造化が得意なAIが、超速度で補ってくれるのです。
 実際に使っていると、散らかしまくった部屋にある情報を、AIが一瞬で探してきてまとめて見せてくれるようなイメージです。

 自分の知識と経験を土台にして、AIの力を組み合わせていくと、思いがけない発想や視点が生まれます。
 私はAIを使っている時間の中で、「この視点、この発想は自分一人では出なかった。または何倍も早く結論が出た」と感じることがよくあります。恐ろしいくらいに。

 まだ使っていない方は「本当に??」と思うかもしれませんが、すでに使っている人は思いっきり同意してくださることでしょう。


新人がAIに頼りすぎると、学ぶ機会を失う

 一方、新人や若い世代がAIを使うことには、慎重になるべきだと感じています。

 仕事を覚える初期段階では、「自分の頭で考える」「自分の手で調べる」「自分で試行錯誤する」という経験が、何よりも大切です。頭を使い、手を動かし、経験を自分の血や肉にするのです。
 AIはとても便利ですが、頼ってしまうとそのプロセスをすっ飛ばしてしまう危険があります。

 たとえば、まだ道を知らない人がナビだけを頼りに運転していたら、いつまでたっても道を覚えられないのと同じです。AIはそれっぽい答えを返してくれますが、その背後にある構造や根拠を知らないまま答えだけを得ても、本質的な理解にはつながりません。

 また、知識や経験が浅い段階でAIを使ってしまうと、AIの出力が正しいのかどうかも判断できません。間違った情報をうのみにしたり、なぜその答えが出たのかを考えずに進めてしまうと、後で大きな誤解や失敗につながることもあります。

 AIを使うには、ある程度の「基礎体力」が必要です。だからこそ、まずは自分の力で考え、試し、振り返る経験を積むことが先決だと考えます。


AIを使うには、段階と準備が必要

 AIは誰でも使える時代になりました。ですが、「誰でも自由に使えること」と「誰が使っても同じように成果が出ること」は、まったく別の話です。

 AIは便利で強力な道具ですが、それを正しく使うには“準備”が必要です。知識、経験、判断力――そうした下地があって初めて、AIは本来の力を発揮します。

 ですから私は、AIの利用は自転車や車のように、“段階的に学び、訓練し、適切に使う”ものだと考えています。
 教育や職場でも、「とりあえず使ってみよう」ではなく、「どのタイミングで、どんな目的で、どう使うか」を丁寧に慎重に考える必要があると思います。

 実力を備えたベテランには、AIはとても心強いパートナーになります。一方で、まだ経験の浅い人にとっては、AIはむしろ“学びを奪い、成長を妨げる存在”になりかねません。

 だからこそ、AIを使うときには「その人にとって、今必要な学びは何か?」を常に問い直すことが大切だと思っています。


 これから間違いなく、AIは、パソコンや外国語のように“+αの専門スキル”として重要になります。
 現時点でAIを使いこなすために重要なものは、“言語力”と“論理的思考力”だと考えています。

 次回ではその辺りについてふれます。